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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和51年(ワ)70号 判決

原告

三宅義徳

被告

三宅健蔵

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自金二六二一万三、八〇八円と、内金二四二一万三、八〇八円に対する昭和四七年一一月七日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担としてその余を被告らの負担とする。

四  この判決は、仮に執行できる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し、金三九九六万七、四四三円および内金三七九六万七、四四三円に対する昭和四七年一一月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (交通事故の発生)

(1) 日時 昭和四七年一一月六日午前八時三〇分ころ

(2) 場所 倉敷市連島町西之浦三六一番地先県道上

(3) 態様 原告が交通整理の行われていない横断歩道上を横断中、被告三宅健蔵(以下被告三宅という)運転の小型ダンプカー(岡四み一三四八号、以下加害車両という)に衝突されたもの

2  (原告の受傷の部位、程度)

(1) 原告は、本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、急性硬膜外血腫の傷害を受けた。

(2) 原告は、右傷害により昭和四七年一一月六日医療法人水清会水島第一病院に入院し、昭和五〇年一一月二〇日高度神経異状(痴呆)、麻痺による起立歩行不能の後遺症(第一級に認定された)を残し現在に至るも機能回復訓練等のため右病院に入院中で、妻三宅佐智恵が付添つている。

3  (被告らの責任)被告三宅は、自動車運転者として、横断しようとする歩行者があるときは、横断歩道の直前で一時停止し歩行者の通行を妨げないようにする義務があるのにこれを怠り、加害車両を運転したため、横断歩行中の原告の発見が遅れ、自車を原告に衝突させたもので民法七〇九条による不法行為責任があり、被告井上は加害車両の所有者で、自賠法三条の運行供用者責任がある。

4  (損害)

(1) 原告は本件事故当時株式会社クラレ玉島工場に勤務していたところ、本件事故による休職のため昭和五〇年四月一五日休職期間満了により解雇されたが、右解雇当時の原告の給与月額は、一四万〇、五五〇円であつた。

(2) 原告が事故のため休職しないで解雇されるまで通常の給与および臨時給与を得ていれば合計五〇二万七、四一九円の収入があつたにも拘らず、休職のため一一四万五、五五五円の収入しかなかつたのでその差額三八八万一、八六四円の休業損害を受けた。

(3) 原告が解雇された翌日(昭和五〇年四月一六日)から症状固定の昭和五〇年一一月二〇日までの二一九日間の休業損害は解雇当時の給与月額を基準として計算するとその金額は一〇二万六、〇一五円である。

(4) 原告は昭和五〇年四月から同年六月までの治療費として一万九、〇三八円を支払つた。

(5) 原告は、事故当日から昭和五二年一〇月二〇日まで病院の部屋代として合計七二万六、八〇〇円を病院に支払つた。

(6) 原告は入院中、付添を必要とするので、原告の妻三宅佐智恵が入院当初から現在まで付添つているところ、昭和五二年一一月五日までの五年間の付添費は一日当り二、〇〇〇円として合計額は三六五万円である。

(7) 入院当初から五年間の入院雑費として一日当り五〇〇円として九一万二、〇〇〇円を要した。

(8) 慰謝料 原告は、本件事故のため重傷を負い、病臥したままで左上下肢は完全麻痺となり自力で歩行することも言葉を充分に発することも不可能で、勤務先は退職させられ、家庭生活を根庭からくつがえされた苦しみを考えると傷害による慰謝料として金三〇〇万円、後遺症によるそれが四〇〇万円が相当である。

(9) 逸失利益

原告は、後遺症一級で、労働能力を一〇〇パーセント喪失したので、症状固定時の昭和五〇年一一月(四七歳)から六七歳まで二〇年間稼働可能であつたと仮定して、給与月額一四万〇、五五〇円、年間臨時給与総額三〇万一、六二九円として新ホフマン式に算出するとその総額は二七〇七万一、七二六円となる。

140,550×12+301,629×13,616=27,071,726円

(10) 弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として二〇〇万円が相当である。

(11) 以上合計金四六二八万七、四四三円

5  (損益相殺)

(1) 自賠責保険金 五五〇万円

(2) 被告三宅からの内払八二万円

6  (結論)

よつて原告は、被告らに各自に対し、残額金三九九六万七、四四三円および弁護士費用を除いた内金三七九六万七、四四三円に対する不法行為の翌日である昭和四七年一一月七日から右金完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1項は否認する。

被告三宅の運転する加害車両は原告と接触していない。原告は前方・左右の安全を全く確認しないまま小走りに出てきて、加害車両の後部に衝突しそうになり、体をかわしたものの勢いがついてそのため路上に転倒したものであり、仮りに加害車両と接触したとしても指がわずかに加害車両左側最後部に接触した程度のものである。

2  請求原因2項中(1)は否認し、(2)は不知

原告が路上で転倒した際の傷害はわずかであり、原告主張の傷害は、原告が右転倒した後、治療を受けた水島第一病院の過失又は原告の自殺的行為により生じたものである。

すなわち、原告は路上に転倒直後、加害車両の後続車訴外荒川健二の乗用車で被告三宅の妻三宅芳恵らが、付添して前記水島第一病院に到着し、見習い看護婦訴外永石ひとみ・大西合見らの指示により、原告はストレツチヤーに乗せられ、右病院の救急処置室に運ばれたが右看護婦らが応急処置等のため、原告から目をはなしたすきに、原告は急にストレツチヤーの上に立ち上り、ドアの方向に向つて、床の上に頭から飛び降りて頭部を強打し、傷害を受けた。原告主張の傷害は、そのため生じたものであるが、水島第一病院としては、収容された人間の異常な行動による事故の発生を未然に防止する注意義務があるものというべきところ、この義務を怠つたため、原告がストレツチヤーから飛び降りるという事故が発生したものであるから、同病院が、同病院内の右事故による責任を負うべきである。

いずれにしても、原告主張の傷害内容は、前記のとおり原告がストレツチヤーから飛び下りるという原告の自殺的行為又は病院側の過失により生じたもので、本件交通事故による傷害とは因果関係がない。

3  請求原因3項中、被告井上喜美枝が加害車両の小型ダンプカーの所有者であることは認めるが、その余の事実は否認する。

4  請求原因4項はすべて知らない。

5  請求原因5項は認める。

第四被告らの主張

1  本件交通事故は、原告が前方左右の安全を全く確認しないで飛び出して来たことに基づくものであるから過失相殺されるべきである。

2  原告の傷害内容は、前記のとおり原告の病院内での自殺的行為により発生し、又は拡大されたものであるから、これも過失相殺されるべきである。

3  被告らは、原告が自認する外に、昭和五五年一〇月までに三二万円を支払つた。

第五被告らの主張に対する原告の認否

被告らの主張の1、2の事実は否認し3の事実は認める。

原告は昭和五五年一一月までに被告らから内入金として合計一一六万円を受領した。

第六証拠関係 〔略〕

理由

一  本件交通事故の態様・過失相殺について

成立に争いのない甲第一ないし第一二号証に、証人荒川健二・同三宅芳恵(第一回)の各証言、被告三宅本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場である倉敷市連島町西之浦三六一番地先の道路状況は、東西に通ずる歩車道の区分がなくセンターラインのあるアスフアルト舗装された幅員六メートルの直線道路と、南北に通ずる道路(北側部分の道路幅員二・三メートル、南側部分の道路幅員五メートル)とが直角に交差する交通整理の行われていない交差点で、東西に通ずる道路には右交差点の西側に横断歩道が設置されており、更にその西側部分にはバス停留所があり、車の交通量の多い所である。

被告三宅は昭和四七年一一月六日午前八時三〇分ころ妻芳恵を助手席に同乗して、小型ダンプカー(岡四み一三四八号以下加害車両という)を運転して、前記東西に通ずる道路を東進して前記交差点附近に差しかかつたが、前方の横断道路の直ぐ西側にバスが停車中であり、又加害車両の直前を走つていた貨物自動車は、右バスの右側を追い越して東進した。被告三宅はバスの後で一時停止したものの、バスは発車する様子もなく、又対向車のないことを確認して、センターラインの右側に出てバスの追い越しを開始し、バスの前部と自車前部がほぼ並んだとき、横断歩道北側部分に四、五人の人が待つているのを発見したが、横断する様子もないと考え、一時停止せず時速約一〇キロ位で約五、六メートル進行したが、その際加害車両左側後方の約二・八メートルの地点を原告が南に小走りで横断接近してくるのをバツク・ミラーで発見し急制動したがおよばず、加害車両後部ボデー部分に原告を接触・衝突せしめ、原告は横断歩道南側の道路に転倒したこと

以上の事実が認められ、右認定に反する被告三宅本人尋問の結果は信用できないし他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、被告三宅には横断歩道の直前で一時停止し横断歩行者の安全を確認しないで進行した過失が認められるが、原告にも前方・左右を確認することなくバスの直前を小走りで横断し加害車両最後部に接触したものでその過失は否定できないが、前掲認定事実によるとその過失割合は原告三宅が三、被告三宅が七と認めるを相当とする。

二  被告らの責任

前掲一で認定のとおり被告三宅には民法七〇九条により、又被告井上が加害車両の所有者であることは当事者間に争いないので自賠法三条により、いずれも後記認定の原告に生じた損害を各自賠償する責任がある。

三  原告の傷害内容、後遺症等

成立に争いのない甲第一三号証ないし第一九号証、乙第二号証の一ないし九に、証人三宅佐智恵・同奥村修三の証言の結果を総合すると請求原因2項の事実が認められる。

ところで、被告らは原告に生じた右傷害は、交通事故により生じたものでなく、原告が病院に収容された直後救急処置室でストレチヤーから飛び降りた際、頭部を強打した結果であると主張するのでこの点について判断する。

成立に争いのない甲第八、九号証、証人三宅芳恵(第一・二回)、同岡野正子、同永石ひとみ(第一・二回)、同河田合見(第一・二回)、同奥村修三の各証言に被告三宅本人尋問の結果、検証の結果を総合すると、原告は前記救急処置室へ運ばれた直後、ストレチヤーから床に落ちた事実が認められる。しかし、原告が自ら飛び降りたものであると供述する証人三宅芳恵(第一、二回)、被告三宅本人の各供述部分は、前掲証拠に照らしたやすく信用できないし、他に右事実を認める証拠はないので、原告の傷害は自らの自殺的行為によるものとの主張は理由がない。

さすれば、原告がストレチヤーから飛び降りたことを前提とする水島第一病院の過失の主張は、それ自体理由のないものというべきで(かりに水島第一病院に何らかの過失が認められるとしても被告らとは共同不法行為の関係にあり、後で求償権の問題として解決可能なもの)あり、前掲証拠によると、原告は、路上で転倒した直後、両手で頭を抱きかかえ、歩行不能な状態のまま救急処置室に運び込まれ、言葉も充分に話せない等重傷を負つたものというべきであり、いずれにしても前掲認定の請求原因2項の傷害は本件交通事故と因果関係があるものと判断される。

四  損害

1  休業損 四九〇万七、八七九円

成立に争いのない甲第二〇号証、同第二一号証に、証人三宅佐智恵の証言によると、原告は本件事故当時株式会社クラレに勤務していたこと、本件事故による休職のため昭和五〇年四月一五日に解雇されたこと、解雇時の給与は月額一四万〇、五五〇円であつたこと、原告が休職せずに解雇されるまで通常の給与および臨時給与を得ていれば、合計金五〇二万七、四一九円の収入を得たにも拘らず、休職のため一一四万五、五五五円の収入があつたのみでその差額三八八万一、八六四円の休業損害を受け、更に右解雇の翌日から前認定の症状固定時である昭和五〇年一一月二〇日までの休業損害は一〇二万六、〇一五円(解雇時の給与を基礎)となり、休業損として以上合計金四九〇万七、八七九円の損害を受けたものと認められる。

2  治療費 一万九、〇三八円

証人三宅佐智恵の証言により成立の認められる甲第二二ないし第二四号証に右証言によると、原告は昭和五〇年四月から同年六月までの治療費として一万九、〇三八円を支払い、同額の損害を受けたものと認められる。

3  部屋代 七二万六、八〇〇円

証人三宅佐智恵の証言により成立の認められる甲第二五号証ないし第二八号証に右証言の結果によると原告は、入院初日から昭和五二年一〇月二〇日までの間に部屋代として合計七二万六、八〇〇円を支払い、同額の損害を受けたものと認められる。

4  入院付添費 三六五万円

証人三宅佐智恵の証言によると原告には入院当初から現在まで付添の必要があり、右三宅佐智恵が付添つたことが認められ、昭和五二年一一月五日まで五年間の付添費用は一日二、〇〇〇円として合計三六五万円を認めるを相当とする。

5  入院雑費 七三万円

原告の請求する五年間の入院雑費は一日四〇〇円として合計七三万円と認めるを相当とする。

6  逸失利益 二七〇七万一、七二六円

成立に争いのない甲第一九号証ないし第二一号証によると原告は、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められ、本件事故がなければ症状固定時より更に六七歳まで二〇年間稼働し得たものと推認できるところ、前掲認定の通り給与月額一四万〇、五五〇円、年間の臨時給与月額を三万一、六二九円として新ホフマン方式により時価を求めると二七〇七万一、七二六円となる。

7  慰謝料 七〇〇万円

原告の本件事故による傷害内容、後遺症等を考慮すると慰謝料として七〇〇万円を認めることを相当とする。

8  以上原告の損害額総計は四四一〇万五、四四三円となる。

五  過失相殺・損益相殺

前掲一で認定した原告の過失を斟酌すると、三〇八七万三、八〇八円となり、更に原告の自認する自賠責保険金五五〇万円、被告らからの内入金一一六万円合計金六六六万円を控除すると金二四二一万三、八〇八円となる。

六  弁護士費用

二〇〇万円を相当と認める。

七  以上によると被告らは各自原告に対し二六二一万三、八〇八円および二四二一万三、八〇八円(弁護士費用を除く)に対する不法行為の翌日である昭和四七年一一月七日から右金完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものというべきであるから、原告の本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を(同免脱宣言は相当でないと認める)適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平田勝美)

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